教えなくても身に付いていくこと その2

以前、周りの真似をしながら日常の色々なことを覚えていく子どもたちの様子をご紹介しました。

 

教えなくても身に付いていくこと

 

今回はそのための具体的な取り組みをお話ししながら、脳の80%以上が完成してしまうと言われている3才〜5才までに、より生きやすい土台を作ってあげるにはどうすればいいかを考えていきましょう。

 

ドーパミンが出るとやる気がおこる

脳科学者の茂木健一郎さんは、著書の中で、0才〜5才までの間に、「子どもの可能性を見つける宝探し」として、親子でどれだけドーパミンを出す経験を繰り返すかが大切だとおっしゃっています。

 

さらには、子どもが難しいことにチャレンジして成功した時、脳が快感物質であるドーパミンを出し気持ち良くなるので、それを求めてまたチャレンジしたくなる、という脳の仕組みを『ドーパミンサイクル』と名付けられました。

 

ご家庭でも、何かを持ってくるなど、ちょっとしたお手伝いを頼んで「ありがとう、助かった」などと褒められた時、お子さんの嬉しそうで晴れやかな笑顔に気付かれることもあると思います。

ただ、さらに何か役に立とうと余計なことをしてしまいお父さんの大目玉を食らうという流れも珍しくないかもしれません。

 

園では、なるべく子どもが興味を持ち「やりたい」と言い出したことを止めず、バランスも考えながら日々の保育、製作や活動に繋げていますが、どう計画して伝え、それがどのように影響しているのか、その具体例を一つ、ご紹介します。

 

 

放送部と発声練習

数年前から、サ行、タ行、ラ行、ナ行の舌音が上手く出ない子たちがとても目立つようになってきました。

その滑舌の悪さや吃音、何も言えずに固まってしまうことを解消できないかと考え、発声練習を取り入れることを思いつきました。

 

 

数人の子は、言葉を発する時に肩から手にかけて緊張するのがわかったので、力を抜くことを教えようと、両手をとり上下に振るようにしました。

だけど、どうしても力が入り腕から首にかけての筋が張るらしく、「痛い」と言って逃げてしまい、残念なことに、嫌がって二度とすることなく卒園してしまった子も居ました。

 

 

それをきっかけに、北原白秋の詩「五十音」を元に、子ども向けに少し創作をしたものを保育室に張り出しました。

興味を持った年の年長児は何度も繰り返してみんなで練習するようにしました。

 

『あめんぼ赤いな アイウエオ

柿の木 栗の木 カキクケコ

笹の葉さらさら サシスセソ・・・』

 

 

以上児の各クラスに掲示している表

 

これを、ア行から始まって、ガ、ザ、ダ、バ、パ行まで覚え、すらすら言えるようになるとオーディションが受けられて、次の段に進める、そんな決まりが出来たのが令和2年度。

本格的な放送部の始動でした。

 

皆の前で間違えずに・・・オーディションの様子

 

 

「放送部構想」の発案から始めるまでに数年を要していますが、一度始まってしまえば、目にしたり聞いたりしている下のクラスに広がって行くのは、なんと早いことか。

オーディションを時々見学していたり、家で兄姉の練習を聞いているうちに自然に覚えた年中・年少さんが「あめんぼ赤いな」を口ずさんでいます。

 

 

年中さんにオーディションの話をすると、口を揃えて

「やりたい!」と言います。

放送部が年中さんに渡されるのも時間の問題かもしれません(笑)

自分で選ぶ事と、任せられる嬉しさ

やる気いっぱいの子が多数である半面、やりたくない子には強制はしません。

あくまでも

 

 

やりたい

楽しい

出来た!

またやりたい

 

というドーパミンサイクルを回すための手段ですから、それは、発声練習や放送部でなくても良いのです。

 

 

大切なのは、やりたいことを任せられるために一定の水準まで努力するシステムであるということです。

そして、必ずクリアしてからでないと先には進めないとケジメをつける、大人の我慢も必要です。

お家で取り組もうとすると、多少の散らかりや後の惨状にも目をつぶる我慢と、片付ける指導も必要かもしれませんが、子どもの成長のためです。

 

 

例えば園では、

絵や工作が上手な子の作品を特別に飾る「美術部」

活動のお手伝いをする先生の秘書役「お手伝いリーダー」

お花の世話や、亀・メダカの餌やり「飼育委員」

今後、その年の子どもたちの状態をふまえ、何を取り決めるかは、毎年違ってくるでしょう。

 

 

お家でも

食事の前に食器や箸を並べる「お食事当番」を兄弟順番を決めて担当させるとか、

準備から片付けまでを(段階を決めて)自由にさせる「お料理人の日」や

どんなやり方でもOKの「お掃除係」「お洗濯たたみ役」など

色々考えると楽しいですね。

夕食作りのお母さんの隣に立たせて、流し台で野菜を洗う(つもり)ことも、お手伝いの導入になりますし、子どもにとっては一緒が嬉しいものです。

 

 

社会人になってからの「労働」に繋がるようなお手伝いを『楽しい』『またやりたい』と思っているうちに、努力を認めた上で任せて行くのです。

発表会のステージを見て感じた事

オーディションの段が上がって行くと

「築山の上から本館の玄関まで届く声で言う」

と、難易度も上がります。

40m程ありますし、一回でパスする子ばかりではありません。

 

 

遠い築山の上から発声をするお友達を玄関から応援

 

 

それでも練習を重ねて合格すると、今度はもっと高度な放送コメントを言えるようになります。

 

 

『代表に選ばれる(先生が選ぶ)』ではなく『自分の力で勝ち取る』という経験を、なるべくハードルの低いうちにやっておくことが重要だとわかるのは、おそらくずいぶん先の事でしょう。

しかし、今しておくことで、子どもたちはこの先、この部分を必死で克服しなくても良くなる上に、頑張ることの楽しさを知ります。

 

 

「勉強しなさい」と親が言わなくても、興味のある楽しそうなことは自分で学んでいくように成長するでしょう。

そんなドーパミンサイクルの中で成長させるのが狙いなのです。

 

 

年長さんの発表会での舞台からの声は、堂々としていて後ろまでしっかりと聞こえていました。

 

令和3年度 年長の劇「さるとかに」フィナーレ

 

発声練習を重ね、失敗と成功を繰り返したことで、メンタル的にも強くなり、肩や腕の力が抜け、下腹に力が入るようになってきました。

自信がついて腹が座ってきたのでしょう。

 

その様子を嬉しく思い、まだまだ過渡期ではありますが、今後も正しいドーパミンサイクルを回せる子どもたちに育つよう、色々な仕組みを考えていきたいと思います。

 

どうぞご家庭でもほんの少し意識してみてください。